表題通りの質問を受けることがよくあります。確かにつらい、苦しい時には、藁にもすがるような気持ちになり、カウンセラーにアドバイスを求めることは当然のことだと思います。しかしセラピーや心理療法にあたるカウンセリングでは、多くのカウンセラーは具体的なアドバイスをほとんどしません。それはなぜなのでしょうか。
今回はカウンセラーがアドバイスをしない、いくつかの理由についてお話ししましょう。
アドバイスをしない大きな理由1つに、「カウンセラーは答えを知らない」ということがまず挙げられます。
これについてはがっかりする人が多いかもしれません。また、「心の専門家なのに答えを知らないなんて、おかしいじゃないか」という不満の声も聞こえてきそうですね。確かにカウンセラーは臨床心理学の専門家ではありますが、クライアントのことを一番理解しているのはクライアント自身、クライアントが一番の専門家であるという考えを持っています。そのためカウンセラーは、ひたすらお話を聞きます。とことん教えてもらいます。クライアントから教えてもらわないことには、全くわからないからなのです。
今「答え」と書いていてふと思ったのですが、そもそも答えとは何でしょうか?窮地を救う、一発逆転の、魔法のような万能の答えは存在するのでしょうか。それが存在するとして、伝えられたクライアントにとって実行可能なものでしょうか。
アドバイスをしない理由の2つ目に、「万人に万能な答えはない」が挙げられます。
例えば「夫が自分と子どもに暴言を吐く、暴力を振るう。どうしたらいいでしょうか」、あるいは「仕事がつらく、会社に行きたくない」といった相談があるとします。「つらいなら離婚すればいい、辞めたらいい」と答えることは簡単で、それは多くの人が納得するような正論かもしれません。ただクライアントがその選択を考えていないはずがなく、悩んでいるのはその選択が出来ない数えきれないくらいに多くの理由があるからです。大多数の人が納得する、解決する、正論のような答えがその人を救うとは限りません。カウンセリングは、目の前のクライアント個人のために高度にカスタマイズされた行為であり、クライアントの人生や考え方、価値観に沿うように、そしてクライアントが最終的に納得できる答えに到達できるようにサポートすることが一番の目的です。
アドバイスをしない最後の理由は、この「カウンセリングはあくまでもクライアントをサポートする行為だから」です。
安全で穏やかな環境でカウンセラーに傾聴、共感されながら、つらい気持ちを抱えられることにより、クライアントはこころの健康を取り戻し、本来の自分らしい自分になっていきます。自分らしい自分だけが、その時に自分らしい解決をすることができるのです。そこに導く、支えることがカウンセラーの役割だと考えています。クライアントに代わって考え、答えてしまうのは違います。
確かにカウンセラーが「こうしてみたら」と面接中に言うことはしばしばあります。それを実行してみたらうまくいった、ということももちろんあると思います。どこかの風邪薬で「すぐ効く、長く効く」というコピーがあったような気がしますが、ここでのアドバイスは「すぐ効く」に当たります。しかし「長く効く」とは限りません。こうしたやりとりは面接中に何度もあるかもしれませんが、これがカウンセリングの本質ではありません。
クライアントが自分のことを話し、カウンセラーが臨床心理学的な視点を持ちながら細かく聞く。そうした長い時間をかけて共同作業をし、ああでもない、こうでもない、やってみたらダメだった、じゃあ違うことをやってみようかと試行錯誤していく過程がカウンセリングです。最終的にクライアントが納得のいく選択をし、自分だけの答えを見つけられた時に本当の解決に至ることでしょう。そこで得られた答えは「長く効く」ものとなり、終結後も生涯にわたってクライアントを支えます。
このようにカウンセラーがアドバイスをしない理由を挙げてきましたが、もちろん何のアドバイスもしないといったことはありません。相談内容によっては弁護士や医療機関を適宜紹介することもありますし、必要に応じて情報提供もします。役に立ちそうな書籍を紹介することもあります。セラピーや心理療法ではない、専門家向けのコンサルテーションやガイダンス中心の相談ではもちろんアドバイスをします。
アドバイスが欲しい!と思う気持ちは当然のことです。何かをしてみたい、考えを広げたいという意欲がある証拠だからです。そしてアドバイスをくれないカウンセラーに不満や怒りが沸いてくることも、これまた当然のことと思います。もしカウンセリング中にこれらの気持ちが起こった時には、そのまま担当者に伝えましょう。話し合うことによって、もっと大切な「長く効く」考え方が得られるかもしれません。(K)