2020年6月に道路交通法改正であおり運転が厳罰化され、もちろんドライブレコーダーの普及もありますが、テレビでは危険運転の映像も以前に比べて頻繁に見られるようになりました。また、今年に入ってからJR宇都宮線の電車内でたばこを吸っていたことを注意された男が、注意した男子高校生に殴る蹴るなどの暴行を加え重傷を負わせた事件があったことも、記憶に新しいと思います。
ここまでではないにしても、どうして人はカッとなるのでしょうか。怒ることをやめられないのでしょうか。
新型コロナウィルスが蔓延するようになってから2年が経ち、外出したり他者と交流したりする機会が激減し、ストレス発散がままならないといった環境ももちろんあると思います。電車内でマスクをしていない人を見かけては、路上喫煙の人の煙を吸い込んでは、イラっとすることが以前に比べて増え、自分自身なんだか余裕がないなあと感じる今日この頃です。
怒りは抑えるもの、我慢すべきものとする考えが、特に日本では強くあるようです。「怒りは敵と思え」、「堪忍五両、思案十両」という言葉のように、我慢が美徳であるかのように言われています。このような文化では怒りは良くないものとされ、抑圧され、なかったことのように扱われます。そして抑圧された怒りは、長期に渡ると高血圧、心疾患、うつ病、不眠など、心身の健康を害するようになりますから、我慢のし過ぎにも注意が必要です。
そうすると「怒りは我慢してはいけないの?わかった、もう今日からダンナに強く言う!」といった声も聞こえてきそうですね。ちょっと待ってください。
ここでは「怒りについて知り、上手に怒る方法」について少しだけお伝えできたらと思います。
怒りはとても大切な感情です。自分の身を守るために必要な機能ですから、なくしてしまうと大変なことになってしまいます。そもそも、消したりなくしたりすることなんてできません。怒りの上手なコントロールには、心理学的な知見が役に立つのです。
まず1つ大切なことを言うと、皆さんが感じている怒りには、もしかしたら皆さんも気づいていない別の感情が隠れているかもしれないということです。例えば彼氏からのLINEが1週間以上ない時、「彼が事故にでも遭ったのではないか」とか、「私と本当は別れたがっているのではないか」といった、不安な気持ちでいっぱいになることでしょう。そして彼からやっとLINEがあると、一転して「なんで連絡してこないのよ!」と怒り、攻撃の一色になってしまうのです。実は心理学の言葉だと怒りは「2次感情」と呼ばれるのですが、この例で言うと最初は不安や寂しさばかりだった感情が、突如として怒りに変わっていることで分かります。すなわち不快な感情が先にあり、それがコップにどんどん注がれ、あふれた瞬間に2次的に怒りに変わるのです。このようなコロナ禍で余裕がない時は、このコップの大きさだって小さくなってしまうことでしょう。
次に大切なことを言うと、人には「考え方のクセ」というものがあります。この例で言うと彼女は「愛しているならLINEは5分以内に返すべき」という考えがあるのかもしれません。こういった「べき思考」が裏切られた時、相手の言動が自分の期待や願望と違った時に怒りは強くなりがちです。当然人は皆価値観が違いますから、「べき」も人それぞれで異なります。彼氏は「忙しいのだからLINEの既読スルーは許されるべき」という「べき」があるかもしれません。このカップルはお互いの「べき」を話し合い、今後のLINEの返信ルールについて決めておく必要がありそうですね。
怒りをコントロールしたい時は、まず怒りの前におそらくある「本当の感情」に目を向けてみましょう。そして自分に強い「べき思考」などの考え方のクセがないか、相手との価値観の違いはどういったところにあるかについても見ていくこと、そしてその違いをすり合わせると良さそうです。
そして相手に怒りを伝える際には、自分を主語(Iメッセージといいます)にして、怒りではなく「本当の感情」の方を伝えてみましょう。「LINEの返信が来なかったから、私はすごく不安だったし、寂しかった」というようにです。怒らせているのは相手の言動ではなく、他でもない自分の「べき思考」なのです。怒っているからといって、自分の「べき」を押しつけたり、強い言い方で伝えてしまったりしないように気をつけましょう。
もちろん注意すべき怒りもあります。特に強い怒り・続いている怒り・何度も繰り返す怒り・人を傷つけたくなる怒りについては、専門家の手助けが必要です。いつでもご相談ください。(K)