Blog: 「Noと言えないのはどうして?」

— バウンダリー(心の境界線)を意識しよう 第1回

久し振りのコラムの更新です。

皆さん「バウンダリー」という言葉を知っていますか?「Noと言えない」、「断われない」、「相手の機嫌に過敏」…このような困りごとがある人達は、少なからずバウンダリーに関する問題を抱えていることがあるようです。バウンダリーについて学び意識することは、健全な人間関係を維持し、自己尊重を保つための重要な要素となります。

今回はこのバウンダリーについて、対人関係を円滑にするためのヒントとなるよう全3回に渡りシリーズでお話ししたいと思います。

心理学用語でいうバウンダリーとは「心の境界線」のことで、自分と他者とを分ける心理的な境界線や、自分がどこまで相手を受け入れられるか、どこからが許せないかといった範囲のことをいいます。対人関係の困難の多くが、このバウンダリーがあいまいになり、うまく機能しない時に起こります。もちろんバウンダリーが厳格過ぎる(壁を作りすぎる)ことで起こる防衛的な態度やかたくなさも対人関係上の問題を引き起こしますが、これはまた別の機会があればお話ししたいと思います。

バウンダリーがあいまいで不健全な時に生じる問題は、以下の通りです。

1) 他者の感情や問題を引き受ける

自分と他者の問題を区別できず、他者の感情や問題を自分のものとして受け止めてしまうことによって問題が起こります。例えば夫が不機嫌だと「自分が何かしたのではないか」と不安になったり先回りしてご機嫌を取ったりする妻、忘れ物が多い子どもに対し宿題をやったか何度も確認したり、代わりに荷物を揃えてしまったりする世話焼きな親がよい例です。

2) 自己犠牲

他者のために自分のニーズや感情を無視し、自己犠牲的にふるまうことで問題が起こります。例えば献身的に介護をしてしまう、恋人に尽くしすぎてしまう、会社の構造上の問題で業務過多になっているのに、個人がサービス残業や休日出勤をすることで何とかしようとしてしまう…といったことがよい例です。

3) 他者の意見に左右される、自己主張が苦手

自分の意見や感情がはっきりしないため、他者の意見に左右されがちになります。例えば本当はお寿司が食べたいのに、相手に「中華が食べたい!」と言われると、そっちの方がいいのかな、と言いなりになってしまうような場合です。このくらいのことならまだ良いかもしれませんが、“振り回す、振り回される”のようなトラブルは、双方にバウンダリーの問題があると考えられます。

4) プライバシーの欠如

自分のプライバシーを守れず、他者に過剰に情報を提供してしまうことがあります。逆に関係が浅いのに、根掘り葉掘り相手のことを聞きだそうとすることもバウンダリーの問題が表れているでしょう。

5) 侵入や過干渉を許す

他者が自分のプライベートな空間や問題に侵入しても、それを制限できません。

これらは自分と他者との間に、明確なバウンダリーが引けていないことによって起こる問題で、最近よく聞かれるようになったHSP(Highly Sensitive Person)という概念も、もしかしたら一部バウンダリーの問題として説明できるかもしれません。

自他の境界があいまいになると、どこまでが自分の問題、課題、責任なのかがわかりません。そのため過度に共感しすぎて本来相手が対応するべき問題や負うべき責任までも引き受けてしまうということがあります。つまりはっきりと相手に「No」と言えないのは、「バウンダリーの機能不全」が大きな原因の1つなのです。

またバウンダリーの問題は「No」と言えないだけでなく、人や状況によっては「お節介」として表れてしまうこともあります。先の1)の例で挙げたいわゆる世話焼きな親は、子どもが忘れ物をして困ること、先生に怒られてしまうことに親自身が耐えられず、子どもがミスをしないようにコントロールすることで自分の不安に対処しているのです。このように自分の欲求充足や不安の回避のために相手や状況を動かす行為を、「バウンダリーオーバー」といいます。健全なバウンダリーをうまく形成できないことの大きな原因は、過去にこの「バウンダリーオーバー」をされ、自分の領域を尊重されなかった歴史による傷つきや、それによって起こる考え方の歪みによるとされています。

次回第2回は、「健全なバウンダリーが形成できない原因は?」についてお話ししたいと思います。(K)