『その悩み、エピクテトスなら、こう言うね。古代ローマの大賢人の教え』(吉川浩満・山本貴光 筑摩書房)を読みました。
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480847508/
エピクテトスとは、古代ローマ時代、奴隷の身分から身を立てた哲学者で、いろいろな悩みをもつ人の相談に答えていった人だそうです。自身は一冊の本も書かなかったけれど、弟子によって、寄せられた様々な相談とエピクテトスによる回答をまとめた本『人生談義』が残されており、夏目漱石なども愛読したとか。
本書では、お二人の対談形式で、やわらかな語り口でその哲学が紹介されていきます。
エピクテトスの哲学を表す言葉のひとつとして、たとえば、「自分の権外と権内を区別せよ」という言葉が引用されています。
「権外」「権内」はあまり目にしないことばですが、「権外」は「自分では変えられないこと」「権内」は「自分で変えられること」を意味しているそうです。
言い換えるならば、自分の変えられることと、変えられないことを見分けていきなさい、ということですね。
「人々を不安にするものは事柄ではなくして、事柄に関する考えである。」という言葉も紹介されています。ある出来事そのものが人を不安にさせるのではなくて、その出来事についての「考え」が人を不安にさせるという考えになります。よく言われる喩えを使うならば、「コップの水が半分ある」という出来事ではなく、それを見た人の「コップの水が半分しかない」という考えによって不安などの感情が起こる、ということになるでしょうか。
本書ではこのようなエピクテトスの考えを引用しながら、現代を生きる私たちの悩みに答えてみる、ということをしています。たとえば「中高生の進路の悩み」や、「上司が自分より若い異性で関係が上手くいかない」などの例で、エピクテトスだったらどう答えるだろうか、ということが話し合われています。まさに「エピクテトスならこう言うね。」ですね。
「感情を引き起こすのは出来事でなく、出来事についての考え」「変えられることと変えられないことを整理していく」…これらのアイディアは、現代の心理療法、特に認知行動療法と共通するものがあります。認知行動療法でも、物事についての「考え」に焦点づけていくことでその方の気分や症状にアプローチしていきます。
実際、認知行動療法の思想としての起源をたどっていくと、このエピクテトスの属した「ストア哲学」がある、という論文もあるようです。
https://api.semanticscholar.org/CorpusID:149730207
昔の人たちもまた、今の我々と同じようなことに悩み、考え、そこから抜け出す道を模索していた、ということが実感されました。
実際に、この「権内」と「権外」という考えを、日々の困りごとに取り入れて考えてみる、ということも試してみるのも面白そうです。「練習が大事」と、エピクテトス先生も仰っています!
(T)