Blog: 「健全なバウンダリーが形成できない原因は?」

— バウンダリー(心の境界線)を意識しよう 第2回

前回に引き続き、シリーズの第2回です。バウンダリーとは「心の境界線」のことで、自分と他者とを分ける心理的な境界線や、自分がどこまで相手を受け入れられるか、どこからが許せないかといった範囲のことをいい、前回の第1回では「No」と言いづらいのはこのバウンダリーがうまく機能していないことが原因の1つであるというお話をさせていただきました。

今回は、成長とともにバウンダリーがどのように形成され、どのように機能不全となってしまうのかといったことについてお話ししようと思います。

養育者との分離とバウンダリー形成

人は新生児から乳児期に、養育者との間に完全な一体感を感じます。産まれてすぐはバウンダリーゼロの状態で、どこまでが自分の身体か相手の身体か、全く区別がついていません。望めば温かいミルクが自動的に流れ込んでくる、オムツの不快は自動で取り除かれるという感覚です。この時期に十分な一体感や愛着を育むことにより、やがて来る分離に向けて心の栄養を貯えることができます。

そしてはいはいを経て歩くことができるようになると、養育者から徐々に離れて周囲の世界の探索を始めます。このような過程では例えば「よく見ないで歩くと頭をテーブルにぶつける」といったことを覚え、その行動の責任を自分で少しずつ引き受けるようになるという、バウンダリーの芽生えを迎えます。このバウンダリーは成長とともに自分の内面に取り込まれ、例えばこのお菓子が欲しいと泣いても必ずしも買ってもらえるとは限らないということから、「欲するものは全て手に入れることができない」という自己の限界を知り、同時に「自分の考えや感情は養育者のものと同じではない」ことも知るようになるのです。

そして4~5歳くらいになると保育園や幼稚園などの社会場面に身を置くことも増え、2人以上の他者とも関係が作れるようになって少しずつ自分の世界を広げていきます。学童期になると学校に遅れないように行く、宿題をやるといった多くのことも自分の管理下に置き、同時に自分で選択した行動の結果と責任を引き受けて行くようになっていきます。

このようにバウンダリーは養育者との分離の過程で成長とともに形成されるようになり、自分と他者とは違う人間である、自分と他者とは違う感情や考えを持つものなのだ、自分の行動の責任は自分にあるのだということを体験的に学んでいくのです。

バウンダリー形成を妨げる「バウンダリーオーバー」

それでは他者とのバウンダリーがうまく形成されずあいまいになり、機能しなくなるということには、どのような原因が考えられるのでしょうか。

1つは前回にもお話しした、他者からの「バウンダリーオーバー」を受けてしまったことによるものです。つまりその人が自分自身について責任を負うことを、他者によって妨げられた経験や、養育者からの虐待、さまざまな剥奪行為、過度なコントロール、罪悪感を抱かせるような巧妙な操作などの被害を受けていたことが考えられます。例えばお互いに分離できずに過保護、過干渉の親に育てられた子どもは、自分の行動を自分で選択しているのか、親が選択しているのかが不明瞭となりますし、その行動の結果の責任の所在もあいまいになります。自分で負うべき責任を他者のせいにしたり、過度に自責的になったりすることに表れることもあります。自分という輪郭線がぼやけ、自分軸が揺らいでしまうという問題が起こるのです。

「バウンダリーオーバー」がもたらす非現実的な考え方

2つ目はそのバウンダリーオーバーの被害の結果、自分や他者に対して現実からズレのある、非現実なものの捉え方や歪んだ考え方がもたらされてしまい、それを修正できないことによって起こります。例えば以下のような考え方です。

「私がNoと言うと相手は嫌な気持ちになるだろう」

「もし私が相手のことを喜ばせることができなければ、人は私から去っていく」

「私の必要は重要なことではない」

これらの考え方は、自分よりも相手を優先し、相手の期待に過度に応えようとしてしまう問題となって表れます。家事や仕事などを頑張り過ぎて、燃え尽きてしまう一因にもなりそうです。

「他者は私の事柄に対して責任を負っている」

「私が望むとおりのことをしない(動かない)人は自己中心的だ」

「私に対してNoという人は、私のことを愛していない」

「私は自分の欲するものをみな手に入れなければならない」

一方でこれらは自己中心的で他罰的な考え方であり、やがて孤立をもたらしてしまいます。イライラや怒りにつながり、モラハラの原因にもなりかねません。

このようにバウンダリーは他者からのバウンダリーオーバーの歴史によって形成を妨げられ、かつそのために捉え方や思考が歪むことにより、対人関係上の問題が起こるのです。

次回第3回(最終回)は「健全なバウンダリーを引くには?」と題して、様々な対処法や工夫についてお伝えいたします。(K)